2019年5 月モンゴル地方検診(バヤンホンゴル)
2019年7月19日
今年5月に実施しましたモンゴルの地方検診先はバヤンホンゴル県に赴きました。バヤンホンゴル県を前回訪れたのは2010年6月でしたので、9年ぶりとなります。
9年ぶりのバヤンホンゴルは実に遠かった
この県はウランバートルから南西へおよそ640kmの距離にあり、南辺は中国と国境を接しています。南ハンガイ山脈とゴビアルタイ山脈に囲まれ、中央部には数多くの湖が点在してその周囲には美しい川が流れ、南部には砂漠、温泉、オアシスがあるなど、モンゴルの中でも特に多様な地理を誇る自然豊かな県です。また野生ロバ、野生ラクダ、ゴビ熊といったこの地域特有の生き物も生息しています。この地域のおもな産業は遊牧です。2019年5月時点で、首都ウランバートルからバヤンホンゴルまで定期便の国内線は飛んでいないため、車での移動となりました。さすがに片道640kmは一気に行くには遠すぎるため、行きはアルワイヘールで一泊、帰りはハラホリンで一泊という旅程を立てました。これでも相当にハードな計画でした。
このように不便な交通では、たとえ地元で心疾患が疑われても精密検査を受けに患者さんとその親御さんがウランバートルまで来ることは容易なことではないでしょう。
モンゴルに到着後そのまま車で現地へGO
バヤンホンゴル検診班の人員構成は、愛媛県立中央病院小児科部長の山本英一先生を班長に、四国おとなとこどもの病院(香川)の小児循環器科の寺田一也先生、高槻病院小児科の内山敬達先生、愛媛大学医学部5回生1人と金沢大学医学部5回生1人の合計5名の日本から渡航したメンバーと、モンゴル国立母子センター小児循環器科のウンドラル医師、現地でわれわれに協力してくれているモンゴルのNPO法人から4名(バド、ウルカ、アマラと運転手さん)参加して総勢10名のグループでした。
渡航メンバーは、4月28日朝に岡山空港と福岡空港から日本を発ち、韓国仁川空港で合流した後、現地時間17時(日本時間18時)にウランバートル・チンギスハーン空港に到着。空港で1時間ほど旅程の確認などのミーティングをしたのち、すぐに車でウランバートルを出発しました。
途中、砂嵐が・・・
目的地は中継地点であるアルワイヘールです。ところが出発後しばらくして大砂嵐が発生し、2時間ほど続いたためその間車は停車を余儀なくされました。モンゴルではいったん舗装された道でも、ひと冬を越すとアスファルトが寒さのために割れてしまうため、春になると工事が必要となる箇所が多く見受けられます。アルワイヘールまでの道も工事中で、到着したのは予定から3時間遅れの午前3時でした。数時間の睡眠をとったのち、8時半にアルワイヘールを出発。さらに210km先のバヤンホンゴル中央病院には午前11時半に到着しました。片道なんと11時間の車移動!!!さっそく院長や病院関係者へ挨拶を済ませ、昼食後、午後2時から検診を開始しました。
初日105名の大盛況
初日の4月29日は105名の受診者が来院し、日本から持参したポータブル心エコー2台と病院所有の大人用心エコー1台の3台を用いて検診を行いました。この病院には、母子センター小児循環器科で研修を受けたことのある成人循環器医師が1名いて、成人仕様ですが心エコー装置も1台装備されていました。これはモンゴル厚生省の方針の一環で、地方の重点病院に心エコー装置を配置すると同時に、その病院の医師を心エコー装置の習得のため年に数回、国立母子保健センターで行われる心エコー検診研修に参加させる仕組みが最近できたとのことでした。このため、母子センター小児循環器科医師達との連携もよく、心疾患患児の管理は他の地域と比べるとかなりしっかりと行われていました。今後この仕組みが各地に広がることで、地方の循環器医療の大きな光となるであろうことを強く感じました。また、村の医院の医師が、わたしたちの到着に合わせて心疾患を疑われる子どもたちを連れて診察に連れて来たことで、県立病院と村の医院の間の関係性が良好なことも推し量られました。
この日の診察が終わったあとは、病院のスタッフと共に病院を取り巻く環境について歓談しながらの夕食をとり、長かった1日が終わりました。
ウランバートル目指して330kmを走破
2日目は19名に心エコー検診を行って午前中の検診が終了。診察時間は全然足りませんでしたが、帰国の日時があるため変更はできません。2日間での総受診者は124名でした。昼食後、午後2時にバヤンホンゴル市を出発。330kmを移動して、午後7時にウランバートルまで残り距離310kmのハラホリンに到着。この日は観光ゲルのツーリストキャンプに宿泊しました。
強行軍でしたが思い出深い健診になりました
翌5月1日は午前中、近くのエルデンゾー寺院とカラコルム都城跡に立ち寄ったのち、昼食後にハラホリンを出発。ウランバートル市には夜7時に戻って来ました。チンギスハーン空港近くのレストランで、ウランバートルで活動していたカテーテル治療班と合流し、食事をとりながら2時間カンファレンスを行いました。その後、空港に向かい、帰国便に搭乗となりました。帰国便は23:15(日本時間5月2日0:15)発の仁川行きで、3:25仁川空港着。ラウンジで仮眠の後、朝、仁川空港発の便でメンバーそれぞれが最寄りの岡山空港、福岡空港、関西空港に帰国しました。
今回の検診班は実に強行スケジュールでした。車での長時間移動も相当体にきついものでした。「腰や背中がガチガチになった」との声も。一方で、モンゴルのインフラの整っていない地域に医療の手を伸べることの大切さを改めて考えさせられる地方検診でした。
バヤンホンゴル検診結果の概略
受診総数124名
うち心疾患なし 52名
心疾患が確定した患者さんにはそれぞれ今後の受診と治療の計画を示し、今後の引き継ぎ病院および国立母子保健センターへの紹介を行いました。