モンゴル地方検診とカテーテル治療活動2017.8
2017年12月8日
2017年8月、モンゴルの首都ウランバートルでの検診・治療と、フブスグル県ムルンでの地方検診の両方に参加された女子医科大学病院循環器小児科の杉山央先生から寄稿がありましたのでご紹介させていただきます。
2回目のモンゴル渡航治療活動への参加
2016年11月に初めてハートセービングプロジェクトに参加させていただき、今回は2回目の渡航医療活動に参加させていただきました。
8月9日、うだるような暑さの東京から、仁川経由で爽やかなウランバートルに到着。翌日は小澤晃先生とともにモンゴル国立母子保健センターで心エコーによる検診、治療の振り分けを行い、夕方からカテーテル治療を3件おこないました。なかなか忙しい一日でした。朝、羽根田紀幸先生と合流し、8月11日、ウランバートルから一足先に行っている地方検診チームと合流するためにフプスグル県のムルンへ。プロペラの小型機の窓からは、広大な草原がどこまでも広がっているのを眺めながら、自分がモンゴルに来ていることを実感しながらの小旅行になりました。ムルンの空港に降り立つと天気は快晴、草原の中にポツンとある家のような空港建物から車に分乗し、検診班滞在先のホテルに到着、先に来ていた検診チームと合流しました。その後、ムルン県立総合病院で心エコーを中心とした検診を午後4時ごろまで行い、2日間で131人にのぼる検診を終了しました。
検診した方のうち心臓病の方は55人でした。その後、遅めの昼食を取り、数台の車に分乗して2時間ほど離れたフプスグル湖のほとりのキャンプに向かいました。湖までの道のりは、見渡す限りの草原であり、ところどころ遊牧民がゲルを立ててキャンプをしている、何百年も前から同じような生活をしてたであろうモンゴルの風景をみることができました。
フブスグル湖はモンゴルのスイスといわれるほど風光明媚な森と湖の観光地で、透明度が高く、とても大きい湖のかなたには蜃気楼が見え、山には夏だというのに雪がありとても幻想的なすがた、観光地といっても大きな街があるわけではなく、モンゴル伝統のゲルのキャンプ地が点在している自然の真っただ中にある素朴なキャンプでした。モンゴルの皆さんが案内してくれたことを心から感謝し、つかの間の休日を満喫しました。翌日ウランバートルに戻りカテーテル治療を数件行い、夜までかかり何とか予定した患者さんの治療を終え、ホテルに戻りました。そのあと、私は日本で用事があるため一足早く帰国することになりましたが、私以外のメンバーは、14日までモンゴル国立母子保健センターで検診101人、カテーテル治療をおこない18人の患者さんの治療を終了しました。
モンゴル医療支援活動とミャンマー医療支援活動
私は、2015年からミャンマーでの医療支援活動に参加していますが、気候の違いと同じくらい医療支援のあり方が違う印象を受けました。もちろん似ているところも多く、どちらも最終目標は同じで、自立した医療の確立なのですが、それぞれの国情、国民性、経済などの違いにより医療支援のアプローチや方法も違うように感じました。カテーテル治療の技術指導に関してはそれほど大きな違いがないのですが、ハートセービングロジェクトの活動に参加して、必要なのは診断やカテーテル治療だけではないことを痛感しました。例えば、ミャンマーは心臓外科チーム部門がすでにあり、まだシンプルな手術がほとんどですがかなりの数の手術をしている実績があり、日本を含む各国が医療支援に来ています。そのような背景から、私たち小児循環器科医は、心エコーやカテーテル治療の医療支援に専念できるという点があります。
こどもの心臓病医療の中で、検診から診断、そして手術への道は、今までも、またこれからも大きな流れであることは変わることはないと思います。しかし、現時点でモンゴルではこどもの心臓手術をすることがまだまだ難しく、多くの困難がある状況の中で、今できることを行い、経験を積んで、次に何が必要か、また将来に向けて何をしていけばよいかということを、モンゴル在住のハートセービングロジェクトのスタッフや医師と一緒になって絶えず考えていくというのが、ハートセービングロジェクトの特色だと思いました。医療支援を通じて自立した医療の確立までを目標とするには、医師ができることには限界があり、日本・モンゴル両国の信頼にもとづいた協力関係と、それを支える経済的支援、さらに行政への働きかけ等多岐にわたる活動をするのが「ハートセービングプロジェクト」という活動なのだと思います。
ハートセービングプロジェクトの活動に対して、私はどうしてもボランティア医療支援をしているという自覚にはなりません。それよりも羽根田紀幸先生をはじめ多くの先輩や仲間から医療の原点を教えられ、自身の医療への取り組みを自問する貴重な機会となりました。このような経験ができるハートセービングロジェクトをこれからも継続的に支援し、おこがましいですが次の世代にもつなげていくことに貢献できれば、これ以上の医師としての喜びはありません。
最後に、病気のこどもたちのご両親やご親戚の方々が、こちらが恥ずかしくなるほど喜んでくださり、元気な子どもの顔を見ることができる機会を与えてくれたハートセービングプロジェクトの皆さんに心より感謝します。
東京女子医科大学病院 循環器小児科 外来医長 杉山央