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2019年8月ウヴルハンガイ県での健診活動

2020年1月16日

2019年8月にモンゴルで実施しました2ヶ所の地方健診のうちウヴルハンガイ県での地方健診活動に参加された理事の田村真通先生のレポートをご紹介します。

モンゴル小児循環器健診 2019年8月ウヴルハンガイ県(アルワイヘール、ホジルト)活動報告

秋田赤十字病院 小児科 田村真通

今回私たちが訪れたのは、首都ウランバートルから西南へ約450kmのウブルハンガイ県です。検診場所としては県庁所在地のあるアルワイヘール市とそこから約60kmウランバートルに近づいたホジルト村の2か所で行われました。
検診班の人員構成は、日本から渡航したメンバーとして、都立小児総合医療センター循環器科矢内俊先生と私の小児循環器医師2名に、近畿大学医学部附属病院看護師1名、島根大学医学部5回生2名の計5名に加え、モンゴル国立母子センター小児循環器科のエネレル先生1名、現地NPO法人ハートセービングプロジェクトモンゴリアのスタッフ3名が加わった総勢9名(プラス現地支援団体から2名の11名)でした。渡航メンバーは、87日朝に成田空港と関西空港を発ち、ウランバートル・チンギスハーン空港に到着。台風などの影響があり、出発便の変更や遅延があったものの、全員無事87日にウランバートルで合流することができました。
翌8日朝、母子センターで今回のカテーテル治療について打ち合わせをした後、アルワイヘール市に向け車で出発しました。モンゴルにしては珍しい雨中のドライブでした。ハラホルンとの分岐点までは道路もよく整備されていましたが、その後は大きな穴ぼこをよけながらの旅です。およそ8時間あまりでアルワイヘール市に到着しました。

8日の朝のウランバートル

朝、モンゴル国立母子保健センターで地方健診の2チームが揃いました

ウヴルハンガイ県の首都アルワイヘールまで車で8時間ほどかかりました

ウブルハンガイ中央病院

ウヴルハンガイ中央病院。まずは院長にご挨拶

大勢が来院して私たちを待っていました

 

翌日9日、朝9時に同市にある県立中央病院を訪れ、院長や関係者への挨拶を終えた後に健診を開始しました。健診初日の8月9日は90人の受診者が来院して、日本から持参したポータブル心エコー1台と病院所有の心エコー1台の合計2台で健診を行いました。

ウヴルハンガイで宿泊したホテル

健診中の矢内俊先生

お子さんたちの笑顔で疲れも吹っ飛びます

午前中で検診を終え、昼食後にアルワイヘール市を出発し、翌日の検診地であるホジルト村に向かいました。ホジルト村までは約60kmと、距離的には決して遠くありません。しかし途中からの道路が、「これぞモンゴル」を感じさせるのに十分なオフロード走行で、結構な時間を経て到着しました。もう少しで到着という時点で、車のタイヤがパンクするというおまけまでつきました。今回の宿泊地ホジルトは、モンゴルでは有名な温泉保養地で、さらに温泉治療を行う専門病院の性格も併せ持っています。日本でいうところの「温泉湯治」に近いものかもしれないと思いました。

到着日の夕方、村長さん、翌日の検診を行う病院長先生と一緒にホルホグ(モンゴル郷土料理のひとつ。焼いた石で肉、野菜を鍋で加熱する)を食べながら歓談しました。その夜偶然、地元出身のSodnom CHINZORIG労働社会保障大臣(Ministry of Labour and Social Protection of Mongolia)が近く、と言ってもオフロードドライブ約1時間の距離、のキャンプ場に来ていることがわかり、私たち全員が大臣と面会する機会を得ました。そこでハートセービングプロジェクトの活動の目的、内容、実績、そして今回の検診計画を説明する機会を得ました。翌11日は、同村で19人の心臓検診を行いました。

ここまできて良かったと思えるホジルト健診

車でも不便なので患者さんには良いチャンスでした

健診中の田村真通先生

81113時頃、晴天のホジルトを出発、ハラホルン市を経由してウランバートルへ向かいましたが、途中からまた雨中ドライブとなりました。

ホジルト村診療所前にて

雨の後の草原でドライブの休憩

遠くの方で雨が降っています

ウブルハンガイ県検診結果

受診総数108名 うち48人が心疾患ありと診断され、その後の治療方針を指示しました。

ホジルト村
受診総数19名 うち8人が心疾患ありと診断され、その後の治療方針を指示しました。

今回訪れたアルワイヘール市にある県立病院はモンゴル国の地域中核病院のひとつであり、そのため今まで訪れた地方病院に比べ設備、人員ともに格段に整備が進んでいました。今までにないような極めて良質の心エコー機と小児用プローブを使用することができました。また小児循環器科での研修歴を有する小児科医が勤務しており、心エコー検査結果、今後の方針、予後などに強い興味を示してくれました。さらに患者説明の場に同席し、母子センター或いは国立第3病院(首都にある成人を対象とした心臓外科を有する病院)との連携に貴重な助言を与えてもらえました。以前に比べ地方と中央の連携がより良好かつ敷居の低いものになっていることが伺われます。この点は私たちの地方検診プロジェクトで目的としていることのひとつであり、効果の表れを感じ取れました。

しかし医師個人でいえば、小児循環器を研修した小児科医といってもまだまだ不十分なレベルに留まっています。具体的には自ら心エコー検査をすること、評価判断すること共に困難な状況でした。その結果、急を要さない疾患であっても、現地で経過観察することには消極的であり、軽微で今後とも問題にならないと判断したケース以外は概ね首都の国立母子保健センターに経過観察を依頼する状態でした。小児期には問題とならない弁膜症は循環器内科医と共に連携して診療継続するようにアドバイスしました。全ての先天性心疾患患者を国立母子保健センターで経過観察することは人員的にもまた地理的にも負担が大きいです。地方における小児循環器診療のレベル向上・維持が課題となリますが、解決にはまだ相当の時間を要することが察せられました。
ホジルト村の診療所はさらに規模が小さく医師の数も多くありません。そのため、小児心臓病に関しては全て国立母子保健センターに診療を委ねる状況でした。日本からの援助によると思われる新しい超音波機器がありましたが、そこには小児用プローブは備わっていません。小児診療そのものがまだ行き渡っていない現状が見受けられました。

今回の検診でも今までと同様に終了時点で合同カンファレンスを開き、検診を受けた患者について予想される経過などを話し合い、なるべく現地の先生に経過観察をお願いする方針をとりました。また必要時に国立母子保健センターに気軽に連絡できる体制が必要と考え、同行した国立母子保健センターの循環器の先生との連携強化も図りました。急を要する患者については今後の予後・治療計画について意見を述べ、早急に国立母子保健センター或いは国立第3病院と連絡を取るようにアドバイスしました。検診を始めた当初と比べ、モンゴル国内の医療状況は明らかに向上し、中央との連携や医師間のネットワークもよい方向に向かっていることは間違いありません。しかし今回の検診で、まだまだ医療の行き渡らない地域がある現状を再認識させられました。

道中のハラホリン(カラコルム)。昔日のモンゴル帝国の都の跡