2019年8月カテーテル治療活動参加レポート
2020年1月27日
2019年8月、モンゴルの首都ウランバートルで実施した心カテーテル治療活動に参加された広島市民病院の中川直美先生からレポートをいただきましたのでご紹介いたします。
初めての夏渡航
広島市広島市民病院 循環器小児科 中川 直美
今回で4回目のモンゴル訪問となりますが、今回が初めての夏渡航でした。空港から出た瞬間、冬に感じた煙たさもなく、適度にひんやりした空気に酷暑の日本から脱出できた束の間の安堵を感じました。
私は今回もカテ班としての参加だったので、いつものごとく短期間にみっちり詰まったスケジュール表を見ながら、デバイス(治療用器具)、カテーテルの在庫と治療内容をいかに適合させ、一例でも多くの患者さんに治療ができるか、を考えていました。
というのも、前回は2017年11月に参加させていただいたのですが、この時は特にASD(心房中隔欠損)閉鎖に関してデバイスとデリバリーシース(デバイスを心臓内に入れるための長い管)の在庫が釣り合っていない、という問題が見られました。欠損孔の大きさに対してぴったり適合する大きさのデバイスを選択しなければなりませんが、デバイスの大きさに応じて、シースの太さが変わります。つまりデバイスにはそれにきちんと適合したサイズのシースが必要なのですが、そのデバイスがあってもシースがないので治療できない、という事態が発生してしまったからです。その時に比較するとデバイス、シースの在庫ともかなり増やしてもらえていて、余裕ができたと感じられました。以前はデリバリーシースに関しては以前は直径25cmくらいに丸めて再滅菌したものがあり、元の形状を維持していないものがありました。本来、デバイス留置を的確にコントロールするために設計されている形状が、全く原形をとどめていない形に変形しているため、コントロールに難渋するといったことも経験しました。今回はそういったものを使う必要はなく、ストレスが軽減されました。
ただリストアップされている患者さんを見ると、体格の割に欠損孔が大きい症例が多いことが気になりました。本来であれば技術の習得レベルに見合うよう、より容易な症例から経験を積み、難しい症例は十分な症例数を経験した後に行う、ということが妥当な進め方でしょう。しかし、一方で、より重症の患者さん(つまりは欠損孔が大きく、難しい症例)の方を早く治療する必要がある、というのも事実であり、このようなリストアップになるのだと理解できます。
また、経胸壁心エコー(通常行う、体の外から観察する心エコー検査)所見からして、デバイス治療はまず無理だと考えられる患者さんをどうするか、ということも考える余地があると思われました。
日本であればその時点で開胸手術を選択するのですが、開胸手術をそうそう簡単には行うことができないモンゴルで、せめて経食道心エコーだけでもやって確認して欲しい、ということも分かる一方、無理なのは明らかだから、その分、この枠をデバイス治療できそうな患者さんに回してあげたい、という思いも感じました。
ただ、この点に関しては、自分たちの経験を振り返っても、各症例の経胸壁エコーの所見と経食道心エコー(麻酔をかけ、口から食道に検査用の太い管を通して観察する心エコー、経胸壁心エコーよりも詳細に心臓内の観察をすることができる)の所見を照らし合わせ、その経験を繰り返し積み重ねることにより、経胸壁エコーのみでデバイス治療は無理だという判断を下せるようになったので、ある程度は必要な経験なのかもしれません。
その経食道心エコーに関しては、モンゴルの先生方が、以前より非常に積極的に自ら経食道心エコーを行い、技術を習得しようとされている姿勢が強く感じられました。やはり心房中隔欠損のデバイス閉鎖は経食道心エコーでの正しい評価があってこそです。この治療が日本で始まった時に自分は経食道心エコー担当から入ったから、という思い入れもあるからでしょうが、とても良い変化、進歩だと感じ、嬉しく思いました。
以前に比較すると、道具がかなりそろったとはいえ、今回も肺動脈弁狭窄の治療では、肺動脈弁を拡げるための適当な大きさのバルーンが手許になく、どうしたものか、と思った場面もありました。みんなで探し回ったところ、事務局のトーヤさんが病院の在庫の中から1本のバルーンを見つけてきてくれました。BIBという特殊なバルーン:バルーン(外側のバルーン:アウターバルーン)の中にもう一つのバルーン(内側のバルーン:インナーバルーン)があり、二重構造になっているもの、でした。
通常ならば肺動脈弁狭窄に単独で使用することはまずないでしょうが、大きさが合うものがこれしかなく、このBIBを使うことにしました。
正直なところ、私自身も使用したのは初めてでした。バルーンの位置を決める人、インナーバルーンを拡張させる人、アウターバルーンを拡張させる人の役割を決め、とにかくしっかりシミュレーションをし、実行しました。極力モンゴルの先生たちとコミュニケーションを取って行きたいので、医師同士の会話は基本的に英語で、と思ってはいましたが、さすがにこの時はタイミングをきっちり合わせないと成功しない、という懸念もあったため、昭和大学病院の藤井隆成先生、大阪母子医療センターの松尾久実代先生と3人で日本語で十分にコミュニケーションを取り、幸い、ほぼベストの位置、タイミングで行うことに成功し、良い結果に繋げることができました。日本国内では別の施設にいると一緒にカテーテル治療を行うことも滅多にないので、多施設の先生方とも交流ができ、それぞれの技術を学べるという点では、私たち日本から渡航している医師にとっても非常に勉強になる、良い機会を与えてもらっていると思います。
3日間という短い期間でしたが、余すことなくその時間でみんながそれぞれ多くのことを経験し、学び、そして何より実際に患者さんの治療に貢献できたことが何よりの喜びです。今後もこの交流が続き、モンゴルでのカテーテル治療が持続的に発展していくことをお祈りし、少しでも協力できればと思っています。よい経験をありがとうございました。
追記:今回のモンゴル滞在中に、元大相撲力士の第70代横綱日馬富士関 ビャンバドルジ氏が応援に来てくださり、はじめて直接お目にかかりました。鳥肌が立つほど感動しました。大きな手でしっかりと握手をしてくださり、とても大きなパワーを頂きました。ありがとうございました。