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ハートセービングプロジェクト

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第2回渡航

2002年8月11日

関西空港から出発の様子。前回の渡航治療を日本国内の学会で報告したこともあり、今回は協力医師が倍増。西は関空から、東は成田から出発し、モンゴル・ウランバートルで集合。
第2回渡航の手荷物。第1回渡航でほとんどの医療器材が不足していることがわかり、相当量の医療機材を手荷物で搬入。
関空での手荷物41個とこの運賃を無料にするために航空会社と病院とのあいだで書類上の手続きを交わした  (2002. 8. 2 関空.  書類がないと35万円のエクセスがかかるところだった)。
活動の拠点となるモンゴル国立母子保健センターで、活動開始前にモンゴル側医師とミーティング。活動方法について打ち合わせ。
島根医大がモンゴルからの留学生を受け入れるきっかけを作ったのは、島根出身の医師・春日行雄氏。春日氏は私財を投げ打ってモンゴルに孤児院「テムジンの友塾」を設立・運営している。今回はその春日氏運営の「テムジンの友塾」を視察。
三日目の日曜日、第1回渡航時に治療した児の自宅へ招待される。ウランバートルから北西50kmの草原で遊牧している家族だ。
患者のご両親とモンゴル式にご挨拶。
元気になった御礼に馬をいただきました。左から黒江医師、患者のお父さん、羽根田医師。
この子は患児の妹。
この子が昨年、重症心不全症状を呈しており、コイル4個で閉鎖後元気になった動脈管開存児。この日はちょうど3才の誕生日。
一家は羊を屠ってホルホグ(石焼きの羊料理)をご馳走してくれた。
モンゴルのアイラグ(馬乳酒)をいただく。
全員で記念写真。
母子保健センターで活動開始。これが米国の事前団体から寄贈された、当時モンゴルで唯一のカラードプラー断層心エコー装置。年式が古く、5~30分継続して使用するとオーバーヒートしてしまった。
今回も母子保健センターのオペ室を使用してカテーテル治療。見つめるモンゴル医師。
術前、カテーテルの調整を行う檜垣医師。
スタッフ全員で日本から持参したポータブルX線透視装置の画像を見入る。
カテーテル治療中。参加の医師が前回より増えたので、サポート体制も前回よりスムースだった。
カテーテル施術後、カルテを記入する上田医師。
カテを受けるこども。麻酔医は現地医師。
 
カテーテルの微調整。

 

期間 : 200282日(金)~10日(土) 小児循環器医6名、一般外科医1名、臨床工学士1名、学生3名 計11

<2002年8月レポート>

モンゴル国は、1990年に社会主義国から自由主義国に移行しましたが、同国の医療事情は、ロシア式の教育および病院体制を受け継いでおり、各病院が専門性で分化しているのが特徴です。基本的には地区の開業医がまず診察して、地区の中央病院に紹介され、更に困難な症例が首都ウランバートルの国立病院に紹介されます。ウランバートルには、国立病院が6つあり、小児の第3次医療機関は国立母子保健センターで、先天性心疾患を持つ小児の診療はこの病院が担当していますが、この分野は著しく立ち後れています。

先天性心疾患の診療は、まずカラードプラー断層心エコー検査を中心とした非侵襲的診断を行い、心臓カテーテル・心血管造影(略して心カテ)検査で診断を確定した後、必要な症例に対しては外科手術が行われ、最近では、動脈管開存や肺動脈弁狭窄といった単純な疾患は、心カテに引き続いて、カテーテル治療(カテーテル・インターベンション)が、先進国では一般的です。

先天性心疾患の診断に不可欠な、カラードプラー断層心エコー装置がモンゴル国に導入されたのは、2000年12月に米国の慈善団体から数年前の型式の機種が寄贈されたのが最初で、2002年現在モンゴル全土でこれ1台のみ。モンゴル国立母子保健センターの小児循環器専門医師S. Byanbasurenらが、これを用いて診断を行っており、診断レベルは、日本の小児循環器専門医師に例えれば、レジデントの域に達していますが、経験不足から下した診断に自信が持てず、同国立第3病院(成人の循環器と心臓外科を担当)の心臓外科医師に対して適切なアドバイスができていないのが実情です。また、この心エコー装置も5分から30分も使うとオーバーヒートする状態です。確定診断に不可欠な心カテは、この病院では行われず、心エコーで手術が必要と判断された場合は、国立第3病院に送られ、この病院で心臓カテーテル・心血管造影検査の後、外科手術が行われますが、小児の病態生理に疎い医師が、成人のための装置や器具を用いて検査を行うために、診断精度が悪く手術成績も極めて不良、というのが現実です。

モンゴル国では、先天性心疾患を持つ子供は、例え極めて単純な病気であっても助からない、というのが一般国民だけでなく多くの医師の共通認識であるので、上記実状はある面では当然のこととして受け止められていますが、この意識を改革し、小児循環器診療の向上を目的として、2001年の年度始めにモンゴル国立母子保健センター院長G. Choijamtsから、島根医科大学小児科に留学中のモンゴル人医師P. Enkhsaikhanを介して、島根難病研究所に技術指導と援助の依頼が来たのが、このプロジェクトのはじまりです。

班長羽根田紀幸医師が日本全国の主な専門医師に協力を呼び掛け、モンゴルのための小児循環器医療団を結成し、心エコーを中心とした診断の指導、治療方針のアドバイス、動脈管開存、肺動脈弁狭窄等カテーテル治療が比較的容易な疾患を実際に治療することにし、平成13年10月に第1回目の渡航を行いました。平成14年度は第1回の渡航結果を踏まえて2度の渡航(8月、12月)を計画。今回は平成14年8月2日に出発し、10日に帰国しました。滞在先はパレスホテル。平成13年の初回渡航と同じくモンゴル国立母子保健センターで診療を行いました。100名の患者の心エコー診断を行い、その中でカテーテル治療適応と考えられた25名から15名を選抜。結果的には動脈管開存13名中12名、肺動脈弁狭窄1名、血管内異物除去1名のカテ-テル治療に成功しました。動脈管開存1名は血管が太かったので診断カテーテルだけにとどめ、治療はモンゴル国立第3病院の心臓外科チームに依頼しました。

今回の渡航中、心和むことがふたつありました。ひとつは、第1回渡航の際、重症心不全症状を呈しており、コイル4個で閉鎖後元気になった動脈管開存児の家族の家へ全員が招待を受けたことです。ウランバートルから北西約50キロのあたりで遊牧をしている家庭で、ホルホグをごちそうになり、また治療の御礼にと馬をいただきました。これはそのままご家族に預けてあります。もうひとつは、島根医大へモンゴルからの留学生受け入れに大変貢献された春日行雄氏が私財を投げ打って設立・運営されている孤児院「テムジンの友塾」の訪問です。館内は清潔で、各々にベッドがあり、プレイルームには多くのおもちゃやテレビもありました。こどもらは素直に元気に育っていました。

カテーテル施術は8月5日から9日まで、国立母子保健センターで5日間3名ずつのペースで行いました。午前8時から夕方までほとんど休みなしの状況。遅いときは夜10時近くまでかかりました。今回の経費総計は約450万円。寄付金でまかないきれず、約30万円の赤字が出ました。カテーテルのほかに55名の診療を行い、今後の治療方針などアドバイスをモンゴル側医師に示しました。