第5回渡航
2004年7月20日
期間 : 2004年7月10日(土)~19日(月) 小児循環器医7名、臨床工学士1名、看護師1名、研修医1名、学生2名 計12名
<2004年レポート>
立ち遅れている小児循環器医療のために治療が放置されているモンゴルの先天性心疾患児を1人でも多く救うことと、あわせてモンゴルの小児循環器医療の自立を目指して平成13年10月よりカテーテル治療を中心としたモンゴル渡航診療を行ってきましたが、第5回となる平成16年度の活動は平成16年7月10日~19日の日程で渡航しました。いままでと同じく全国から有志を募り、資金は広く日本国内からの募金により、器材はその募金によって日本国内で調達して手荷物(総重量235kg)として持ち込みました。
日本国内からの参加者は、小児循環器医7名・総合研修医1名・臨床工学士1名・看護師1名の10名に、島根大学医学部と他校の学生が1名ずつの計12名で、それにかつて島根医科大学小児科に留学していたこのプロジェクトの立ち上げ者であるP. Enkhsaikhan医師とその夫Y. Orgil氏が現留学先である米国テキサス州ヒューストンから合流しました。
到着日はパレスホテルに一泊し、その後はEnkhsaikhsan医師の親戚宅をはじめ、紹介いただいたウランバートル内の家にホームステイさせていただきました。今回はまさにナーダムと時期が重なり、モンゴル側のスタッフの手配でこどもが行う競馬を観戦することができました。好天に恵まれ、今まで数回モンゴルを訪問しながらほとんど初めてにして空の青さや空気のすがすがしさ、馬とモンゴルらしい景色に接することができました。
まずUlaanbaatar市にある国立母子保健センターで同センター受診中の心疾患児約80名に心エコーを行いました。同センター小児循環器医の診断は正確でしたが、外科治療の時期や方法の指導は行われていませんでした。われわれが行った心エコーの結果をもとに、国立母子保健センターや米国の援助団体であるSamaritan’s Purseに属するモンゴル人小児循環器医師とカンファレンスを行い、外科手術・カテーテル治療・診断カテーテルの適応の有無を議論しました。その結果、非開心術適応の1例は同じ市内にある同国の心臓センターである国立第3病院での手術を指示、3例はSamaritan’s Purseプログラムでの米国渡航手術と判断しました。
モンゴル国では、われわれが活動を始めた2001年当時から心臓血管造影装置は国立第3病院にしかありませんでしたが、これが今回訪問したときにはオーストラリア・シドニーの病院とロータリークラブの援助で日本と同等の診療レベルのものに更新されていました。同病院で、翌日からの3日間で15例の治療カテーテル、4日目は7例の診断カテーテルを行いました。治療カテーテルの内容は動脈管開存コイル閉鎖8名、肺動脈弁狭窄バルン拡張5名、大動脈縮窄バルン拡張1名、大動脈縮窄バルン拡張と動脈管開存コイル閉鎖を同時に行ったのが1名でした。この中には重症心不全症状を呈していた乳児例1名、中等症心不全症状を呈していた乳児例1名、幼児例1名が含まれていましたが、すべて成功し全員元気になりました。診断カテーテルの7例には、手術至適時期が過ぎたために先進国でも手術が不可能な進行例が3例(心室中隔欠損1例、ファロー四徴2例)あり、4例(心室中隔欠損2例、心房中隔欠損1例、ファロー四徴1例)が米国渡航プログラムに乗ることになりました。動脈管開存でカテーテル治療が可能な症例があと3人いましたが、血行動態的に待機可能と判断されたことと日程や器材の関係で次回渡航時の治療としました。
前回に引き続いて、日本から持参したポータブル心エコー装置を使用しての地方都市小児心臓検診も行いました。検診班の構成は日本人医師2名・看護師1名・医学生1名と現地医師・通訳で、Ulaanbaatarから東方に50 km離れたナライハ市に出向きました。現地医師がスクリーニングした患者を中心に53名が受診し、15名(うち3名は成人)が有心疾患者でした。そのうち2名は次回渡航時にカテ-テル治療の対象になりうると判断されましたが、3名は相当進行した状態で、日本ならもっと早期に外科手術で回復させることができるであろうと判断されました。53名のうちの10名以上は、自覚症状から患者や家族自身が心疾患を疑っての受診であり、住民が心臓に関しての「正確な」診断を熱望していることが伝わってきました。医療資源の乏しい発展途上国の地方都市でも、地元病院との連携やポータブル医療機器の持ち込みにより、住民の要望に合致した効果的な心臓検診が行い得ることが判明しました。
モンゴルの小児循環器医療が立ち遅れている原因の最たるものは国全体の経済の立ち遅れですが、われわれが手を差し伸べられる範囲でもっとも問題なのはモンゴル人医師の意識・意欲であることが今回の渡航でも痛感しました。意識改革には時間を要するので本活動の継続が重要であることに変わりはありません。われわれが治療を実践しながら、同時に術前診断・術後管理の指導などの教育プログラムを充実させることが重要であると改めて認識しました。